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雑感

緑という余白・東京23区住宅地考

春になって、うちの庭の花が咲き出した。自慢はしだれ桜。普通の桜よりも咲く時期が遅いので、ようやく今ちょこちょこと濃いめのピンクの花が裸だった焦げ茶色の枝に加わってきた。私が住んでいる物件は一軒家の一階部分で、毎日庭を見ながら過ごす。冬の間はいたって普通のありふれた緑の絨毯だったのが、春になって名前が分からない白い花が一面ブワッと咲いて、今は白と緑の絨毯になっている。ここに野良猫が通りがかると、図々しい性格の猫でも白い花に包まれたその姿はかなりメルヘンチック。最近はまた別の、細長い葉っぱの植物も背が伸びてきて、紫色の花が咲き始めた。

うちの庭だけでも春の芽吹きを著しく感じるのだが、近所の庭や公園で花が咲き出したのをあちこちで目撃していたので「春になってきたんやなあ」と日々実感していた。とくに近所の山の中にある公園では、少し前、木の枝に桜の花がチラッとついていたので、「そろそろ満開に近いはず」と思って最近夫と散歩がてら様子を確認しに行った。そしたら思った以上に桜が咲き乱れていて、密かに圧巻の景色をつくっていた。ここはそんなに知られた場所でもないようで、犬の散歩コースに利用してる人や子どもを遊ばせるために一緒に来る親子など、近所の人たちしか来ない、隠れ家的花見スポットになっている。なので次の日は夫とピクニック気分で焼きそばを持っていき、ベンチで花見をしながらお昼を食べた。

「花とかあんまり見てなかったけど麻里奈が花に興味があるから言われて意識するようになったよ」と夫に言われた。一瞬、「ん?興味?」と思った。たしかに私はことあるごとに咲いてる花を見つけては「見て、咲いてる」と指差して夫にそれを見るように促していた。でも、私、そもそも花にそんなに興味あったっけ?むしろない方だったような。実際、小説とかの風景描写は退屈すぎて苦手で、読み飛ばしたい衝動に駆られるページNo.1なはずだ。

よくよく考えてみると、東京にはこんなに草木はなかった。今住んでいるところは東京の隣県だが、ほとんど東京に隣接しているくらい近いところである。だけど、住宅地の様子が東京とは違う。どこの家にもいろんな種類の木が植わっていて、整いきっていない、ちょっと野性的な年季の入った庭の濃い緑が住宅地を覆うようにして風景をつくっている。だけど、東京の住宅地にはこんなに緑はなかった。そもそも庭のある家が少なかった。あったとしても敷地からはみ出していって逞しき野生のパワーを見せつけているような、本来の意味の「自然」を見ているような植物の姿はない。庭の植物は周りを気にしながら個々の家の範囲内に肩身狭そうに収まっている、そういう印象だった。東京の住宅地はあくまでアスファルトとコンクリートが主役。緑は厳密に指定された場所にしか存在することが許されてないような感じだった。

だから、花を目撃する機会が今までほとんどなかったのだ。東京で春を感じようとしたら、「緑があるのはここです」と指定されている場所に行って確認するしかない。公園とか、並木通りとか、ちゃんとそれ用に整えられたところにしかない。桜は不用意に突然現れない。椿も、梅も、こぶしも、菜の花も、キンカンも、はっさくの実も。東京で季節を感じることが乏しかったのは、私が仕事や生活ばかりにかまけていたからだけではなくて、道端に季節が転がっていなかったからだったのだ。

東京と言っても私が住んだことがあるのが23区なので、23区を外れるとまた事情が変わってくるのかもしれないが、ともかく、東京23区内は人がいすぎて一人一人が所有できる土地の面積が小さいのだろう。だから互いに気を遣い合って、人に迷惑掛けないように、はみ出ないようにしながら、肩を寄せ合い、肩身狭くいるのだろう。

23区には、余白がない。手つかずの土地がない。すべての土地に何かしらの意味付けがされている。この自然は公園ですよ、ウォーキングコースの緑道ですよ、神社の敷地ですよ、とか。だけど、今住んでいるところでは「指定保全地区」という名の、手をつけるにはちょっとめんどくさそうな竹薮の森が、歩いていると突如出現する。ドーンと大雑把に、放置された自然がそこかしこにある。こういう緑の余白に私はホッと息を抜く。東京にいたとき、どうしてもコンビニに寄らずにはバランスを取れないような息詰まり感をいつも感じていたが、それはあまりにも余白の地がなく、誰の所有地でもない、お金を払わなくても許される「居てもいい」場所が自分の部屋以外にほとんどなかったからだったのだ。

そういう意味で、東京は住む場所としては特殊な地域だ。東京を出てみて、「人工」の意味がさらによく理解できる。すでに地元びいきなのか、この先また東京に住みたいとは思っていない。今は、東京での生活はもうほかの人に任せて、余白のある日常を味わいたい気分でいる。

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